第十六話 孟徳の世界〜もーちゃんワールド
孟徳と玄徳は2匹とも社会性に欠けているが、性格と行動パターンは全く違う。
玄徳は非常にわかりやすく、いつも目をまん丸に見開き『ぼく一生懸命で〜す』という犬である。他の犬を見かければ吠えながら飛びかかろうとするし、食べ物があれば体当たりで奪おうとする。甘えたいときは前足で人を引っかき『撫でろ』とせがみ、怒られるとぷるぷると震えテーブルの下や布団の中に潜り込む。喜怒哀楽をシンプルかつ強烈に表現するのが玄徳だ。
一方、目蓋がはれぼったく無表情でぬぼ〜っとしており、何を考えているのかよくわからないのが孟徳だ。外界から入ってくる様々な情報は、五感を通して孟徳の脳に伝えられると、我々には理解できない思考回路が働き、結果、予想もつかない行動をひき起こす。
例えば、夫婦で外出から帰ると犬たちは大喜びで迎えにくる。
「みんないい子にしてた?」
妻が声をかけると、もう大はしゃぎである。越前と玄徳は、我先に飛び跳ねながらまとわり付いてくるのだが、2匹の勢いに圧されて孟徳は近寄ることができない。運動神経が鈍いのだ。少し離れたところで、右に左にうろうろそわそわしている。どうにかして、自分も注目してほしい。そこで彼が出した結論は・・・、
「あんたっ!なんてことするの!!」
冷蔵庫に向かっておしっこをして見せたのだ。
「こら〜っ!この馬鹿野郎!!」
越前と玄徳が目をまん丸にして硬直する。ところが孟徳は、
『ヘッヘッヘッ』
孟徳は、怒鳴られるといつも、しっぽを振って喜ぶのだ。ちなみに孟徳のしっぽは普通のフレブルより長い。11cmのたらこ型だ。
「おまえな〜、もう少し別の方法があるんじゃないか?」
たらこをギコギコ左右に振る姿があまりに間抜けで、笑ってしまう。怒る気力も、もう無い。
孟徳は、怒られることが平気なせいで、とにかく傍若無人である。食卓の椅子に座り込むのもこいつだけだ。越前は絶対に椅子に乗ることはないし、玄徳も怒られるとすぐ降りる。しかし孟徳は、力ずくで降ろされない限り居座るし、降ろしてもすぐに乗ってくる。
『ぼくは、ただ座っているだけブー』
とでも言っているように、椅子の上でじっとうなだれているのである。
テーブルの上に食べ物を置くとき、
「もーちゃん、絶対食べちゃだめだよ。」
妻が声をかけても、下を向いたまま、
『ぼくは、興味ないブー。考え事をしているんだブー。』
というポーズをする。ところが、ちょっとでも目を離すと・・・
ガッブー、バク、バク、バクッ!
電光石火で皿に噛り付く。こういうとき、孟徳の顔つきは変わる。ギャグ漫画の顔から劇画タッチになる。目つきが凛々しく、精悍な顔になるのだ。
「やめなさ〜いっ!」
妻が首根っこを掴んで引き離そうとするが、首を伸ばして皿から離れようとしない。まるでカメかすっぽんだ。
「なんてことすんのよ。この、あんぽん。」
と言われても、
フンッ
と鼻を鳴らして舌をぴちゃぴちゃ鳴らすだけだ。
『何を言われようが、喰ったもんの勝ちだブー』
とでも言うように。
「孟徳って、どうして怒っても言うこと聞かないのかな?」
「う〜ん。そう言えば・・・」
怒られ慣れてしまったのかもしれない。誰かが粗相をして犯人がわからないとき、まず、
「だれだ〜っ?これをやったのは〜っ?」
と、低い声をだす。この声を聞いた瞬間、越前と玄徳はす〜っと部屋の隅に逃げていくのだが、孟徳はとろいので一匹だけ足元に残っているのだ。必然的に、孟徳ばかりが怒られていた。
「じゃあ、この子、もしかしたら知恵遅れってこと?」
「う〜ん。そうとも言えないんじゃないか?ほら、例えば・・・」
我が家は犬と一緒に寝る。躾の本を読むと、これをしてはならないと書かれている。しかし、何を言われようが、犬を抱いて寝る幸せを捨てる気はない。それはさておき、寝る時も孟徳は出遅れる。人間二人、越前、玄徳、そして猫のアタリが自分の陣地を確保した後にのこのこと布団までやってくるのだが、自分が納まる場所がない。
「もうちゃん、もう場所ないよ〜。」
よく妻がふざける。
そういう時、孟徳はぼ〜っと越前たちを見つめ、熟睡しているかを確認する。そして突然(絶妙のタイミングで)玄関に向かって、
ワフッ、ワフッ、ワオ〜ン!!
と吠えるのだ。
直情径行型気質の越前と玄徳は、すかさず飛び起き、
ギャウ、ギャウ、ギャウ〜ッ!
ダ、ダ、ダ、ダ、ダーッ!
叫びながら、侵入者を撃退すべく玄関に向かって突進して行く。その間に、孟徳はのそのそと布団にあがり、
『よっこらしょ』 と腹ばいになり、
フ〜ッ(やれやれ)
と長いため息をつく。
「この技は、馬鹿犬にはできないよ。孫子の兵法、戦わずして勝つってやつだな。」
「言われてみれば、そうだね。(性格悪いけど)でも、毎回騙されてる越前と玄徳が心配になってきたわ。」
「それほど上手ってことだよ。」
「じゃあ、孟徳はすごく賢い犬ってこと?」
「それは〜・・・」
未だによくわからない。
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