第十七話 孟徳の世界〜もーちゃんワールド2
孟徳には、霊が見える・・・のかもしれない。
時折孟徳は、部屋の一点を見つめ、延々と狂ったように吠える。
「もうちゃん、やめなさい。」
妻がいくら言っても聞こえないかのように吠え続けるのだ。
「うんうん。えらいぞ孟徳。きっと幽霊を追い払おうとしてくれてるんだよ。」ふざけて孟徳を褒めると、
「いつものはったりじゃないの?」
「それを言っちゃあ、孟徳の立つ瀬がないだろ。たぶん、そうだろうけど。」
最初の頃は、特に気にもしていなかった。それが・・・、
「お前がやったら洒落にならんぞ。」
黒猫のアタリが、孟徳が吠えかける同じ場所をジーッと見つめるのだ。あげく、
んにゃ〜っ!
と鳴いたりした。
「やっぱり見えてるのかな?」
「そうかもしれん。でも、幽霊って犬が嫌いって言うからちょうどいいんじゃない。」
「なんで嫌いなの?」
「幽霊も吠えられるのが駄目らしいよ。」
「へえ、だったら孟徳、役にたってるじゃない。」
「そうそう。そう言えば、フレブルってシーサーに似てるよな。」
ところが、ある真夜中に・・・
かぷっ、かぷっ、かぷっ
という音に目が覚めた。
(また眼鏡をやられたか)
と思ったが、眼鏡は所定の場所にちゃんとあった。
電気をつけると、孟徳が空中を見上げながら、ぱくぱくと口を開け閉めしている。ふと気づくと、妻も起きていて孟徳を見つめている。
「何してるように見える?」
「なんか食べてるように見える。」
まるで、目に見えない誰かにおやつをもらっているかのようだった。
「だよね・・・」
不気味さに、背筋がぞ〜っとする・・・よりも、
「あほか〜っ!お前は〜っ!!幽霊に餌付けされてどないすんねん。」
「ほんとよ。情けないったら。」
フレブルとオカルトは食い合わせが悪い。怖いというよりコメディだ。むしろ、我々が孟徳に恐怖するのは・・・・食糞である。
他の2匹は一切しないのに、孟徳だけは食糞癖がある。夕食が終わると、3匹は時間差をつけてうんちをしに行く。孟徳は一番最後である。ゆっくりとデザートを楽しむためだ。
「食べてきたみたい。」
「げ〜っ、またですか〜。」
ぴっちゃ、ぴっちゃしながら戻って来たら、それはデザートを堪能したというサインだ。それは恐怖のサインでもある。
我が家の犬は、どういうわけか、気に入った食事の後にはご挨拶にやってくる。
『ありがとうございました〜。おいしかったです〜。』
と言わんばかりに頬ずりしてくるのである。
孟徳にとって、うんちは御馳走なので、当然ご挨拶しなければならないと思っているらしい。
「こっちへ来るな〜。俺は飯を作ってな〜いっ。」
向こうへ押しやると、妻の方に寄っていく。
「あっち行って〜。それ作ったのは私じゃな〜い。越前か玄徳に挨拶して〜っ。」
食糞は、健康のためにはいいらしい。事実、健康診断の結果が一番いいのはいつも孟徳である。しかしいくら健康のためとは言え、食後のご挨拶やうんちの香りのゲップ、とどめはうんちまじりのゲロをされては・・・、さすがの妻も黙ってはいられなかった。
犬たちがうんちから戻ると、妻は急いで回収に行った。孟徳はというと、寂しそうにうな垂れながら、
ブブー(今日も無いです)
と戻ってくる日々が続いた・・・が、ある時解決策を見出した。
「最近、越前たちうんちしてないみたいなんだけど。」
「そんなはずないでしょ。気のせいだよ。」
「なんかおかしいのよね。絶対。」
その翌日、妻は犬たちの後ろをついてまわったらしい。すると、
「ぎゃ〜っ。なんてことするのよ!」
なんと孟徳が、越前の肛門から直接うんちを食べていたそうである。
食糞をめぐっての、妻と孟徳の闘いは・・・、今も続いている。
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