第十九話 玄徳の主張
犬にもおしゃべりと無口がいるようだ。
玄徳はよくしゃべる。愚痴を・・・。それも、しつこい。気に入らないことがある時は、延々と不平不満をまくしたてる。
例えば、横になってテレビを見ていると、
『
きゅお〜、ひゅお〜、ひ〜ん』
(テレビばっかり見てないで、相手してくれよ〜)
枕元に座り込み、遊んでくれと訴える。無視すると、
<ガリ、ガリ、ガリ>
前足で私の頭を引っ掻く。結構痛いのだが、それでも無視。しかし、玄徳も諦めない。
<ぬ〜っ>
目の前に座り込む。
「どけよ。見えないだろ。」
わかってやってるのか、たまたまなのかよくわからないが、たぶんわかった上での嫌がらせだろう。押しのけようとしても、梃子でも動かないからだ。そして、声高に抗議を始める。
『
ひゃう、ひゃう、ひゃう〜』
(飼い主だったら、犬の面倒見ろよ〜)
こうなったらどうしようもない。頭を撫でたり、体をゴロゴロ転がしたり、首回りのだぶついた皮をつまんだり、ほっぺたをぐにぐにしたり、『もうやめてくれ』と言うまでいじくり回すしかない。
玄徳の不満は、飼い主との物理的距離に比例する。机やテーブルに向かって作業している時、不満の雄叫びはさらに大きくなる。スキンシップがとれないからだ。私はある資格を取ろうとしているのだが、仕事の合間を縫っての勉強となるので必死である。なのに・・・、
『あう、あう、あう〜っ』
(お前いったい何やってんだよ〜っ)
「・・・・。」
犬どころでは無い。
『あひ、あひ、あへ〜っ』
(こっち向け!俺の目を見ろ!返事をしろ!)
「うるせ〜な。あっちで寝てろ。」
すると、私の膝の間からにょきっと頭を突き出し、
『きゃひ〜、きゃふ〜』
(そんな言い方しなくったっていいだろ。)
『 ぎゅる、ぎゃる、ぎゅる〜』
(犬はなー、無視されるといじけるんだぞ〜っ。)
『 ×○▲&#・・・』
『 ?□!%・・・』
『 ・・・』
『 ・・・』
『 ・・・』
「が〜っ!わかったよ。ほら、来い。」
仕方がないので、膝の上に抱えてやりしばらく撫でてやる。すると・・・、
『ぐが〜っ』
仰向けになって爆睡しだすのだ。18Kgの寝る子を左腕に抱え、右手で問題集を解く・・・、なんて芸当ができるわけがない。 中断だ。
玄徳は、妻にもよく文句を言う。特にひどいのが、散歩に出かける直前である。もともと我が家の散歩は騒々しい。一言でも「散歩」という言葉を聞くと、3匹は興奮状態に陥り家中を駆けずり回る。そこら中の物をなぎ倒しながら・・・。だから私たち夫婦の会話で、「散歩」という言葉は禁句である。散歩の準備をするにしても、『散歩じゃないよ。掃除してるだけだよ。』という振りをしなければならない。
しかし、野生の勘というものであろうか。気配を察知すると、3匹はおもむろに立ち上がり、じーっとこちらの様子を伺う。
<ギラ、ギラ、ギラッ>
妖しく光る6つの瞳に囲まれながら、平静を装う妻。一触即発の緊張感だ。全ての準備が整うと、最後にリードを手に取る。静けさの中、
カチャリ
リードに付いている鎖が微かに鳴った瞬間、
<ドドドドドッ〜!>
3匹は、堰を切ったように玄関に突進する。
「もーっ。ちょっと、じっとしててよ!」
狭い玄関で3匹が入り乱れながら暴れるので、首輪も簡単にはつけられない。一番動きまわるのが玄徳なので、最初に首輪をつけなければならない。ところが首輪が付いたとたん、
『ぎゅ〜んっ、ふんわっ、ふんわっ、ふんわっ!』
(はやくしろよ〜〜っ!とろとろすんな〜!)
残り2匹のことなど関係ない。はやくしろとせっつく。
「うるさ〜いっ!今から行くって言ってるじゃない!」
いくら犬に甘い妻でも、これには頭にくるようだ。
『ぐるる〜、きゃわわ〜っ!』
『
ひ〜ん、ひ〜ん!』
『
・・・』
『
・・・』
散歩には賛成だが、準備の仕方や段取りが気に入らないと言っているらしい。
最近の郵政民営化選挙の報道を見ながら;
「玄徳が政治家だったら、きっと民営化反対の造反議員になってるな。民営化には賛成だけど、小泉のやり方が気に入らない。」
「言えてる。うちの子たちも、新党結成したりするんじゃない?」
「党名は?」
「う〜ん。『新党ぶひぶひ』はどう?」
「いや、むしろ『自由ガツガツ党』だろ。公約は、『食材の自由化』。キャッチフレーズは、『犬の飯にも塩コショウ』。で、街頭演説は、『犬のみなさ〜んっ!このままでは、人と犬との食品格差は広がるばかりで〜す。もっと動物性脂肪を〜っ。犬にも甘いお菓子を〜っ。」
「それ、私への嫌味?」
「いや、そういうわけでは・・・。」
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