番外編2 ある晴れた冬の日。散歩にて

                                         「あーっ、いい天気!!まさに散歩日和」

冬の暖かい晴れた日は、フレンチブルにとってはうってつけの天気。

熱中症や息切れの心配もなく、ぬくぬくした日差しを浴びて、飼主・犬ともども心ゆくまで散歩を楽しめる。そんな貴重な冬のある日。

『今日も無事に帰還するぞ・・』
喜び勇んで玄関まで突進してきた3匹のフレンチブルに、大型犬用の極太リードを装着しながら、心の中で気合を入れた。

思うに[犬の散歩]というものは昔から[お父さんの役割]というイメージがあるのだが、我が夫は散歩に行きたがらない。その真意を質すには至っていないが、容易に想像できる。

[犬の引きが異常に強い上、犬が全く言うことを聞かない]からだ。

我が家のフレブルは、全部17kgを超える超ヘビー級である。加えて、躾ができていない。夫は、私のせいだと思っている。そう、3匹それぞれが思い思いに好き勝手な方向へ全力で進むのである。さらに、それぞれに速度と引っ張り具合が違うので、3匹+1人が前に進んでいくには微妙なリード裁きと強力な力技が必要なのである。1回散歩に行くと、もうくたくただ。

ちゃんと多頭散歩のしつけをしろよという感じだが、なあなあで、ここまで来てしまった。

という訳で、散歩のたびに、『無事に帰還できますように』と気合を入れるわけである。

「しかし! 今日は晴れ晴れとした散歩日和。この時間の公園は人も犬も少ないし、久しぶりにボール遊びでもしてやるか・・・。」

こいつらは 『ボール命』だ。例え熱中症でぶったおれそうになろうが、ボールを咥えて放さない。あれだけ喜ぶ姿を見ると、飼主的にもわくわくする。「久しぶりに全力で遊ばしてやるぞ−っ」と、足取り軽く玄関を出ていつもの散歩コースへ。

犬達も嬉しそうに全力で飛び出した。相変わらず引きが強くて手が痛いが、まあ、いいとしよう。

いつもの公園。都心にしてはまあまあ広くて、それなりに楽しめる。アスファルトの広場から芝生のコーナーへ、3匹は一目散である。そこにはいっぱい匂いが詰まっているのだ。さしづめ、犬用掲示板といったところだろうか。

そばのベンチでは、若いサラリーマンが、犬達のはしゃぐ様を微笑ましそうに眺めている。別のベンチでは年配のサラリーマンが興味なさげに新聞を読んでいた。

芝生に入った途端、1匹が便意をもよおし出した。

「おっと」
くるくる回って、体をまるめて、位置を定め、一気にりきんで・・・。

『うっ、まずい。』

こいつは、うん○の後で強烈な後ろ蹴りをするのだ。この距離だとベンチに座っているサラリーマンは、死ぬ。

『速攻で“もの”を回収しなくては。』

1匹がうん○の最中には、後の2匹には「待て」の号令をかける。散歩中、勝手気儘を決め込んでいる奴らも、自分の用足し中にひっぱられるのは堪らないのか、不思議と他犬の用足し中には大人しくしている。

いつもは・・・。

急ぎ撤去したいばかりに、「待て」を言うのを忘れた。バッグの中のトイレットペーパーとビニール袋に手をかけた一瞬が命とりとなった。

突然1匹が何かの匂いに興奮し、用足し中の犬の後ろに突進して行った。

「ぎゃぁ−っっっ!!! げげ〜っっっっ !!!」
まさに、ぶりんと物が出てきたところに、もう一匹が顔から突っ込んでいった。からまったリードのせいで、距離をとれなかったのだ。顔から肩にかけて「ねり〜っ」とペーストが擦り付けられていった。用足し中だった犬の臀部も、一面茶色。毛並みにそってきれいに凹凸模様までついている。

「きたない〜 ! 首輪にもついてる――!なんで−、いい加減にしてよ−〜!!!」

逆上した私は、人目もはばからず一人で叫んでいた。

さっきまで好意的にこちらをみていた若いサラリーマンが、冷ややかに席を立ちどこかへ去って行った。『お前がそんなとこに座ってるからこうなったんだよ~』と、内心苛立った。

「あんたたちも、今日のボール遊びは無しっ!!」
犬にも怒鳴り散らす。

今までにない最悪の状況だ。このまま家に帰るわけにもいかず、大きなため息をつきながらトイレットペーパーで2匹を拭うことにした。

『あ〜、ペーパーまるまる一巻き持ってきて良かった。 それでなくても1回の散歩で1匹2回×3匹=合計6回分はとらなきゃならないんだから・・・。今日はペーパーの量はぎりぎりセーフってところかな・・。』

突っ込んできた奴は、芝生の上に裏返り、ゴロゴロしながらはしゃいでいる。枯れた芝生が全身にコロモのようにくっつく。油で揚げる直前のトンカツみたいになった。芝生がパン粉で、溶き卵が・・・。

「てめぇ〜ら、本気で油で揚げるぞ。」
泣きそうになりながら、その場を回収していると、

が〜んっ
と衝撃が走った。

3匹に、横倒しに引き倒されたのだ。左手に3匹分のリード、右手に「もの」を握り締めて、ひっくりかえっている自分に気づく。

「こんにちは〜。あら、みんな同じ顔してるんでちゅね〜。」

ふと見上げると「愛らしい」シーズー犬が尻尾を振っている。その背後には上品な風情のお母様とお婆様とおぼしきお二人が。犬同士の挨拶をさせに来たらしい。うちの犬たちは、その犬めがけて、前ふり無しの全力ダッシュをかけたのだ。

新聞を読んでいた方のサラリーマンが、大爆笑している。トンカツどもは、大はしゃぎで シーズーに飛び掛ろうとする。私はといえば、横倒しのまま、うん○を握り締め、犬達に引きずられていた。にも関わらず、シーズーの飼主達は、それでも犬に挨拶をさせようとする。立ち去る気配は一切無い・・・・。

「 す、すみませんが、今はちょっと、やめてもらえませんか・・・ 」
横倒しのまま、お二方に丁重にお願いし、行って頂いた。

その後、散歩は中断し、人の少ない道を選んでダッシュで帰宅。・・・しようと思ったら、家のすぐ近くで

「かわいいね〜!」

と言いながら知らないおじさんが寄ってきた。中年オヤジの一般的傾向だと思うのだが、飼主に断りもなく犬を撫でようとするのはいただけない。このおじさんも、例外ではなく、いきなりしゃがんで撫でだした。

『ふっふっふっ。うちの犬は、むちゃくちゃ愛想がいいよ。』

うちの3匹は、撫でられると大喜びで飛び掛っていく。躾ができていないから。この時も、いつものようにおじさんに抱きついていった。ベタベタの状態で。

「お〜、いい子だ、い・・・」 で、言葉を失った。

「すみません。ちょっとトラブルがあったので。」
と一応謝ったが、内心すっきりした。運のおすそわけ。これを機会に、反省してくれるといいのだが。

家に帰り、犬を洗いながら、やっぱりしつけをし直そうと固く決意した。

それにしても、うん○をとっている時に限って、道を尋ねられたり、「何という犬種ですか」と聞かれたり、「かわいいねー」と声をかけて撫でられたり、よそ様の犬が挨拶に来たりするのは気のせいだろうか・・・。

 

番外編2 完 

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